元某大学テニス部コーチブログ

学生テニスプレーヤーへ

リターンが下手な人が無意識にやっている「バカなこと」とその直し方

以前、大学の練習テーマが「強く安定したファーストサーブとリターン」だったことがありました。今日はリターンについて、その時選手たちに伝えたことを書きたいと思います。

事前に幹部からは「上位の選手にもリターンが下手な選手がいます。そこを改善することは優先度の高い課題と考えています」と聞いていました。特にスピードに対応できていないことが主な問題とのこと。サーブやリターンといったファーストショットの成功率は勝敗を大きく左右するので重要です。正しい判断といえます。

その後、部員からヒアリングした個々人のリターンの課題意識は主に以下の3点でした。

  1. ラケットセットをコンパクトにしたい
  2. 打点で面を安定させたい
  3. どんなコースに対しても素早く打点に体を持っていきたい

どれもスピードに対応する際に重要なポイントです。みんなやれないといけないことはわかっています。つまり、「わかっているけどできない」と悩んでいるということです。

この「わかっているけどできない」を克服するために私は「無意識の意識化」に注力しました。ここからは特にこの部分について書きたいと思います。

ここでいう「無意識の意識化」とは、わかりやすくいうと「当たり前だと思ってやっていた、あるいは、なんとなくやっていたことが間違っていたということに気づいてもらう」ということです。

私は今回、選手の脳に刺激を与えることで気づいてもらおうと「けっこうバカなことしてない?気づこう!変えよう!」と少し過激なメッセージで、具体的には次の3つの例を選手たちに説明しました。

  • バカ1. 立ち位置が毎回同じ
  • バカ2. ストロークと同じ動作
  • バカ3. 地面を蹴り上げながら打つ

それぞれ具体例を交えながら詳しい説明もしました。

バカ1. 立ち位置が毎回同じ

「相手が違えばサーブのスピードや得意コースも違います。ファーストとセカンドでも違う。それなのに毎回同じレディーポジションを取るのはバカです。サーブが早ければ後ろ、遅ければ前に調整しましょう。例えばナダル。彼のリターンポジションはテレビ画面に収まらないほど後ろのことがあります。その時のポジションはだいたいベースラインから3m以上後ろです。それくらい極端に変えた方がいい場合も少なくない」

この話をした後、実際にデモンストレーションで1年生にボールを打ってもらいました。ベースライン後ろに構えてもらい。サービスラインの後ろからコーチが彼のフォア側にぶつけるように強くワンバウンドさせたボールを投げます。当然距離が近いので動作が間に合わず返せません。彼のポジションを2m近く後ろに変えて同じことをすると、軽々と返せるようになります。少しポジションを変えるだけで難易度が格段に下がるのです。

バカ2. ストロークと同じ動作

「特にスピードのあるサーブのリターンはもはやストロークとは別物です。いうなればストロークに似たボレー。ストロークとは別のショットと考えた方がいい。ナダルのように極端に後ろのポジションを取らない限りすべてがブロックリターン。ストロークは[(スプリット)ステップ・ワン・ツー・スリー]で打つのに対して、リターンは[ステップ・ワン・ツー]で打つショットです。高校生以上の男子のファーストサーブリターンの場合は[ステップ・ワン]で打つものと考えた方がいい。」

そう伝えました。ここでのポイントは、いかにラケットセットをコンパクトにするかです。テイクバックという概念をなくすイメージとも言えます。[ステップ・ワン]で打つものと考えれば自ずとラケットセットはコンパクトになります。

バカ3. 地面を蹴り上げながら打つ

「ボールがすごいスピードで飛んで来てるのに、目線がすごいスピードで下から上に動いていたら当然ラケットの真ん中で捉えるのは難しくなります。震度5の地震を体験する起震車の中でボレーボレーするのは難しいのと同じ。目線を上下左右にブラさない方がリターンは簡単です」

ジョコビッチのストロークの練習風景を見ると顔のブレがほぼない事に驚きます。

目線がブレず、体幹もブレなければ、コンパクトなスイングでもパワーのあるリターンを打つことは可能です。また逆に、体幹が強ければより目線をブラすことなくプレーできるようになります。

練習では、リターンミス1回につきテニスに有効な体幹トレーニングを10秒するというルールを設けるととても有効かもしれません。

リターンは、目線をブラさず、ステップ・ワン!