優勝する選手になるために不可欠な地頭と強い心
前回、優勝できる選手とできない選手の差は技術ではないと書きました。技術や身体よりもまず地頭、次に心を磨くことの方が重要という話をしました。
今回はその続編です。選手の頭と心を育てることの重要性をわかっているコーチが考え、実践していることを事例を交えて3つ紹介したいと思います。
言うまでもなく、選手自身がこの内容を理解し、行動に反映することができればそれは優勝への近道となります。
優勝できる選手像
頭と心を育てた先にある優勝できる選手像は、前回の記事で使った言葉でいうと「自分で自分をコーチできる選手」です。自発的に育つ選手、地頭の良い選手とも言い換えることができます。これが頭の部分です。
かつ、自信に満ちあふれている選手です。もちろん内に秘めた自信でもいいですし、公言する自信でもいい。これが心の部分です。
すなわち、地頭の良い自信に満ちあふれた選手がもっとも優勝に近い選手ということです。
テニスコート上に限らず人生においても、こういう人は自分で自分の道を切り拓く大人になります。
そしてこれは小学1年生でもなれます。
こう言うと「いや~無理でしょう」と言う大人が多いのが現実です。それが成功者と言われる人間がひと握りしかいない理由のひとつだと私は考えています。
身近にいる親が我が子の限界を設定した時点でその子がそのラインを飛び越える可能性は限りなくゼロに近づきます。
子どもの可能性は無限大です。前回の記事に書いた通り、現に私の息子は小学1年生でそう育ち優勝しています。
私の息子が特別なのではありません。親が早い時期から必要な対応をすれば、生まれてきたほぼすべての子どもがそうなれると私は信じています。
少し話がそれたので戻します。
地頭は夢中になった分だけ育つ
何でもいいから夢中になろう。
これは、ホリエモンこと堀江貴文氏も東京大学名誉教授で教育学者の汐見稔幸(しおみとしゆき)氏も言っています。
周囲の人間が引くくらいに無我夢中になり、熱狂的なまでに没入する。そうなればこっちのものだ。仕事に没頭し、遊びに没頭し、夢中になれさえすれば、目的なんておのずと達成される。結果はあとからついてくる。(堀江氏)
没頭体験があれば、たとえ失敗したり行き詰まったりしても、自分が本当にやりたいことを見つけたらまた没頭していくことができる。その力をいかに伸ばすかということを、家庭でも考える時代ですね。(汐見氏)
私もテニスコーチとして子どもから大人まで多くのプレイヤーを見てきた経験から、またひとりの父親として子どもを見ている経験、さらには自分自身の経験から、これこそが人間の本来あるべき姿とさえ考えています。
大学でも1年生向けのオリエンテーションで選手に伝えていることのひとつです。テニスもどれだけひとりの世界に入り込み黙々と夢中になれたかです。それは技術を磨けるからだけではありません。地頭も育てるからです。
「ひとりで」というのがポイントです。そういった意味では「没頭」という言葉の方が的確かもしれません。
ひとりの世界に入り込み好きなことに夢中になると、人間はひとりでいろいろ考えはじめます。そしていろいろ試しはじめます。試行錯誤しながらどうやったらもっと上手くボールを打てるか研究しはじめます。
人間はもともとそういう生き物です。
私の息子も、どうやったらYouTubeでいつも観ているあのフェデラーのようなシングルバックハンドが打てるのか、と試行錯誤して打てるようになりました。
私が伝えた技術的アドバイスは「テイクバックは頭の後ろ」これだけです。
もちろん、何日もかかっていました。しかし、打てるようになっただけでなく、地頭も強くなったので、それだけの時間をかけた甲斐がありました。
また、私はコーチというよりはヒッティングパートナーに近い関わり方をし、ほとんど口を出さないので、ラリーをはじめると永遠と打ち続けます。
週末の1日に5時間付き合わされたこともあります。その時はひたすら打ち合った後に1セットマッチを5回もやることになりました。テニスコートではなく広い公園で。
そして超集中状態とも言えるこの没頭タイムは、誰かの視線を意識したり、求めていないタイミングで声をかけられた瞬間途絶えます。
だから、良いコーチはプレーする選手を見て目についた「できていない点」にコメントをしないことが少なくありません。
そのうち選手自身で気づけそうなことはスルーします。あるいは、その選手が今意識すべき課題でないと判断した上でスルーします。
逆に言うと、選手の声に耳を傾けることもせず、一方的にいろいろ言っているコーチからは距離を置いた方がいい、ということです。
これに関連して、大学の部活でよく見かけるのが先輩からの下手なアドバイス問題です。頻繁に指摘されるために没頭できなくなったり、最悪の場合、間違ったアドバイスに悩まされて遠回りさせてしまっていることさえあります。
2~3年生にはこの話を伝え、「アドバイスを慎み、自分で考えさせよう」「アドバイスするのは聞かれたときに聞かれたことだけに回答するようにしよう」と伝えています。
ちなみに、テニスに限らず特に競合の多い世界では、プロのレベルに達までに必要な時間は1万時間と言われています。
毎日3時間を約10年間という計算になります。どのように試算したかは定かではありませんが、テニスに置き換えた場合、それだけの時間没頭しているとすればあながち間違いとは言えません。
こういった情報も参考に自分の活動内容を最適化して行きましょう。
自信は勝利という実績からしか育たない
最後は、自信を身につけるために必要なことについてです。
よく自信をつけるためには「成功体験の積み重ねが重要」という話を聞きます。もちろん重要です。しかし、これはテニスが好きになるまでの話です。
例えば、幼少期であれば「ラケットにボールが当たるようになった」「ボールが前に飛んだ」「ボールがネットを越えた」といった小さな成功体験の積み重ねにより子どもはテニスに夢中になっていきます。
しかし、ここで言っている自信は、「自分には優勝できる可能性が十分ある」という自信です。なので、小さな成功体験では身につきません。
必要なのは、本番での勝利という実績です。
大会に出場し1回勝てれば、次に同レベルの大会に出た時に「1回は勝てる可能性は十分ある」という自信が持てるようになります。それを繰り返し少しづつ勝つ回数を増やしていきます。前回準優勝していれば、次は優勝できる可能性があるという自信が備わります。
ここで重要になるのが、出場する大会の選定です。
自信を育てるという観点でいうと、背伸びした大会よりも少し優しい大会を選ぶべきです。
1回戦、2回戦は楽勝できるけど決勝戦は勝っても負けてもおかしくないというレベルの大会です。
そして、優勝を目標と定めます。
さらに、優勝癖をつけるべきです。つまり、そのレベルの大会で複数回優勝するということです。
そうすることで、確実にレベルを上げながら強い心と自信が育ちます。
例え、高校生や大学生の場合でも、社会人向けの週末のワンデートーナメントなど探せばいくらでもあります。
私の息子は4回目の挑戦で優勝しました。
3回目は準優勝でした。
2回目は3位4位トーナメントの優勝。
1回目は3位4位トーナメント2回戦敗退でした。
多くの大人が「オレンジボールで優勝したら次はグリーンボールに挑戦だ!」となりますが、私はそう考えません。
その判断は息子に委ねます。
息子は、小学2年生の間は引き続きオレンジボールの大会で金メダルコレクターになろうとしています。
息子の選択するそれが、正しい成長と私は考えています。
地頭の良い自身に満ちあふれた選手になるために、正しい選択をせよ!