ダブルスの落とし穴。自己主張できない選手が試合序盤に陥りがちなこと。
前回の記事「試合に勝つために「相手の弱点を見抜く」をしちゃダメな時がある。」では、相手を観る前に自分を観ろと書きました。
自分のパフォーマンスを最大化し、自分のプレーを自動化することが最優先。相手の弱点を突くのはそれができてから。
前回の記事は、主にシングルスを想定して書きました。今回は、ダブルスについてです。
相手以外に敵をつくるという落とし穴
テニスでは相手に惑わされないことが重要。これはもちろんシングルスもダブルスも同じです。
ダブルスの場合、例えば、リターンの時に積極的にポーチに出てくる相手ボレーヤーに惑わされてリターンが返球できないという事態に陥ってはいけません。
プレッシャーを与えてくる相手を前にして、「あれをしてくるこれもしてくる」と相手がしてくることで頭がいっぱいになってしまっては、自分のパフォーマンスを上げることはできません。
相手に意識を向けるのではなく、飛んでくるボールを感じとり、自分の打点の質を高めるためにやるべきことに意識を集中させるのです。
しかし、今回の記事でいう「落とし穴」は、この相手のプレッシャーではありません。
ダブルスでは、相手以外にもうひとり敵を作ってしまう人がいます。そのもうひとりの敵とは、味方であるはずのパートナーです。
特にダブルスの試合を経験しはじめた頃は、2対2で戦っていたはずなのに、いつの間にか1対3で戦ってるような心理状況に陥っていたという経験をしたことがある人も多いでしょう。
そしてこのもっとも大きな原因のひとつが、自分のパフォーマンスを最大化する前に、パートナーに言われたことに意識を奪われてしまったことなのです。
「相手がこうだから、自分たちはあれをしようこれをしよう(または、あれをした方がいいこれをした方がいい)」というパートナーからの提案です。
ここに落とし穴があります。
自分のパフォーマンスを最大化し、プレーを自動化できていない限りパートナーの提案に応えることはできないのです。
しかし、多くの人がそれを知らず、できないのに「それに応えなくては」と考え、無理をするという誤った選択をしてしまいます。
断れない日本人、人に合わせる日本人、空気を読む日本人特有の落とし穴ともいえます。
解決のためのヒント「心理的安全性」
特にリーグ選手になれば、「これくらいできて当たり前だよな?」という空気があります。
もちろん、できて当たり前という技術はあります。
しかし、試合本番の立ち上がりというのはいつも通りいかないのが常です。団体戦ならなおさらでしょう。
もう少しカラダが温まってからの方がいいという時はあります。
例えば、試合序盤の自分のサーブでパートナーがサインプレーでサーブのコースを指示してきた時などです。
少しでも不安があったなら、ちゃんとパートナーに伝えるべきです。
「今はまだパフォーマンスを上げきれてないからサーブはすべてボディを狙わせてほしい。だからサーブ後はすべて臨機応変に、それぞれが積極的に、かつ基本的なプレーを選ぶことにしよう」
これを主張されたパートナーも大人の対応をするべきです。
「彼は、サインプレーの指示に合わせようとするとミスが増え、試合が後手になるという確信があったからこそ勇気を持ってそう伝えてくれたんだ。ここは彼を信じて、彼のパフォーマンスが上がるのを待とう」
こういった、正直ベースの尊重し合えるコミュニケーションができるダブルスペアは強いです。
これをビジネスの世界では「心理的安全性」といいます。
心理的安全性とは、チームメンバーが感じたままの想いを素直に伝えることのできる環境や雰囲気のことです。チームの生産性を高める唯一の方法として、2015年に米グーグル社が発表したことをきっかけにビジネスの世界では大きな注目を集めました。
心理的安全性のあるダブルスペアは、パフォーマンスが上がらないまま中途半端にプレーする時間がなくなります。
しっかりとお互いが高いパフォーマンスを発揮し合えるため、相手との駆け引きも心理的に優位な状態をつくりやすくなります。
ダブルスは、パートナーと自分の意見をいい合えるフェアな関係が理想です。
上下関係が明確なペアの場合、下の選手のミスが目立ちはじめると一気に崩れることがあります。
これは、上の選手が下の選手に対して心理的安全性をつくれていないケースです。
上の選手は自ずとムードメーカーとなるので、上下関係があるペアの場合は、上の選手が心理的安全性をつくる義務があります。
記事タイトルでは、「自己主張できない選手が陥る」と書きましたが、正確には、自己主張できない選手に問題があるのではなく、自己主張できないペアの関係性に問題があるのです。
そんな関係のパートナーとはペアを解消し、別の組み合わせを考えた方がいいでしょう。
あるいは、心理的安全性の重要性を理解し、自分たちが変わるしかありません。どう変わればいいかという話はまた別の機会に書きたいと思います。
そして何より、相手やパートナーに惑わされず、まずは自分の打点の質を高めることに集中しましょう。