エースなのにさらにどんどん強くなる選手が踏んでいた4つのステップ
今回は、私がコーチを務める大学が昇格という大きな目標を達成した年のエースの話をしたいと思います。
その選手は4年生で、チームのムードメーカー。どんな場面でもチームを引っ張り、部員全員から慕われていました。
何よりもコート上でプレーする姿が素敵でした。誰よりも熱く、勝負にこだわり、最後の最後まで諦めない姿。すべてのポイントで100%、いや120%力を出し切る熱い男でした。
エースと言っても、ダントツに強いエースではありません。鼻を高くし他のメンバーを寄せつけないオーラを放つエースも少なくありませんが、彼は違いました。人によって態度を変えるようなことはなく、後輩にも同期にも先輩にも、コーチに対してもフランクで、同じように立ち振る舞う点も彼が誰からも尊敬される理由のひとつだったと思います。
彼を一言で表すのは難しいですが、マッチする言葉をあげるとすれば、「情熱」「努力」「リーダー」といったところでしょうか。
前回の記事でチームで目標を達成するために必要な5つのことを書きましたが、その内の「情熱」と「愛」と「やり切る力」は彼がいたからこそチームに備わっていた力と言っても過言ではなかったかもしれません。
さて、本当に良いところしかない彼ですが、ここからは、中でも「テニス、強くなりたいです!」という人に参考にしてほしい彼の思考ややっていたことを紹介したいと思います。
彼がやっていたことは大きくわけると次の4ステップです。
- ゴールを明文化する
- 圧倒的に活動する
- 自分で考えて自分で答えを出す
- アドバイスをもらい切り捨てる
1をした後、2と3を同時に実行し、可能な限りたくさん4の機会を作るということをしていました。
詳しく説明します。
1. ゴールを明文化する
これはコーチである私が全部員に指示したことではありますが、彼はそれに対して誰よりも前向きに取り組んでいました。これを実施したのはリーグ本番の約一年前、10月です。部員全員に一年後の自分のあるべき姿を明文化してもらいました。それは、選手としての姿はもちろん、コートの外にいる時の自分の姿も含めてです。
その内容には個人差がありましたが、彼のゴールは全部員の中でもっとも強い意志の伝わるもののひとつでした。参考までに具体的な内容の一部を以下に記載します。
引退時、一年後になりたい選手像
- 変化をつけながら戦うアグレッシブベースライナー
- 基本的に速いボール、速いペースで攻めつつ、スライスやネットプレーなどを混ぜる
- 試合の展開、相手によって配球やペースは変える(速い展開が理想だがこだわりすぎない)
- フォアに圧倒的な自信を持っている
- チャンスボールは逃さずに攻める
- ボールを最後まで追いかける
- 声を出しチームを盛り上げる
- 見ている人に何か感じさせるようなプレーをする
- リーグ本番誰にも負けないようになる
2. 圧倒的に活動する
これは言うまでもなく強くなるために必要なことのひとつです。もっとも必要なことはと言ってもいいでしょう。
ここで重要なことは、1で具体化したゴールへのこだわりとそこから逆算した必要な活動の実行、つまり、活動の質です。
学生は暇ではありません。テニスをできる時間にはどうしても限りがあります。彼はその時間を一瞬たりとも無駄にしないタイプの人間でした。なんとなくやっている時間が皆無でした。
また、「練習」と言わず「活動」と言っているのは、彼が実践していたことは、ボールを打つことだけではないからです。この活動には、体幹やフットワークなど、オフコートトレーニングや実践練習とも言える試合も含まれます。
3. 自分で考えて自分で答えを出す
この4つのステップはすべて重要ですが、あえてこの4つに優先順位をつけるなら、これは圧倒的な活動量の次に重要と考えています。
ちなみに、自分で答えを出せる人と出せない人の違いは次の2つです。
- 「なぜ?」を考える習慣の有無
- 活動量
さらに、その答えが正しいか否か、答えの精度は活動量で決まってきます。
また、自分で考え自分で答えを出せる選手ほど、成長が早いというのはすぐに理解できると思います。専属コーチが常にそばにいるようなものです。さらに、これができる選手に共通する強みは調子の波が小さくなりやすいという点です。
以前の記事で「実力 = 持力 × 発揮率」という話をしましたが、彼の発揮率は悪い時で90%、100%が普通、格上が相手の時は常に100%を超えていました。普段から、今調子が悪い理由を考え、自分で答えを出し改善しているので試合中でもそれができるわけです。
4. アドバイスをもらい切り捨てる
アドバイスをもらい、それを実践する。これは比較的みんなやっています。
彼のすごいところは、「これは自分には当てはまらない」と判断したアドバイスをバンバン切り捨てていた点です。
私はアドバイスをもらうことよりも、切り捨てることの方が重要と考えています。この切り捨てができない選手は、不適切なアドバイスに苦しめられて逆に悩まされていることが少なくありません。
「大先輩のアドバイスだから無視できない」
「コーチのアドバイスだから正しいに決まっている」
と安易に判断してしまう選手が少なくありません。
「試してみたけど、なんか打ちづらいし、それをすると明らかにパフォーマンスが下がってる」
こう感じたら、それが誰に言われたアドバイスだとしても(例えフェデラー選手からのアドバイスだったとしても!)切り捨てるべきです。
アドバイスはどんどんもらい、はじめて聞いたものは意識的に試してみて、感覚的に良かったものは取り入れ、微妙だったものはバンバン切り捨てる。これがアドバイスを自分の力に変える秘訣です。
一年後の選手像を決めて、猛烈にテニスをし、自分で考え答えを出し、微妙なアドバイスはバンバン切り捨て、どんどん強くなろう!