試合では「自動化」できている技術しか使えない。運動学習でいう自動化とは?
運動学習における3つの段階という話を聞いたことがあるという選手も少なくないと思います。
ある運動を習得するまで、例えば、「バックハンドスライスをはじめて見た」ところから「試合でバックハンドスライスを難なく使えるようになる」までには大きく分けて次の3つの段階(ステージ)があるという話です。
- 認知段階
- 連合段階
- 自動化段階
これらがそれぞれどのような段階で、試合に勝つためには何をどのステージにしないといけないのかを理解していれば、自分の活動の質を上げることができ、成長スピードを大きく向上させることができます。
また今回は、この3つの段階を理解した時によくある間違いについても書きたいと思います。
認知段階とは「知る」ステージ
認知段階は、一言でいえば「知る」段階です。
例えば、右利きの選手がアドバンテージサイドからサーブで相手を外に追い出したいと考えたとします。
「それにはキックサーブが有効」ということを先輩からはじめて教えてもらった時、それを頭で理解しようとします。また同時に、観てイメージを掴もうとします。
この段階を認知段階といいます。
具体的に、技術的に、どのようにすればキックサーブになるのか、というディテールや動作イメージなどの情報をインプットする段階です。
それは、言語で論理的に理解するだけではありません。雰囲気であったり、映像のようなイメージとして感じとることもとても重要です。
連合段階とは「やってみる」ステージ
連合段階は、一言でいうと「やってみる」段階です。
言うまでもなく、何事も頭で理解したり、想像できたからといってすぐにできるわけではありません。
「こんな感じかな」と想定しながら、実際に試すことを何度も何度も繰り返さない限りできるようにはなりません。
連合段階は、やってみるというアウトプットを繰り返し、頭と身体の意識合わせをしながら、コツを掴むステップと言えます。
「そうか、こうすればいいのか!」という気づきをいくつも得ながら、それを意識して何度も打つことで身体に上手くいく動作を叩き込みます。それが叩き込めたら次の段階です。
一般的に練習は、連合段階の取り組みと言えます。
自動化段階とは「考えなくても打てる」ステージ
自動化段階は、一言でいうと「考えなくても打てる」段階です。
前述の例で言うなら、「アドサイドからワイドにキックサーブを打って相手を外に追い出そう」と思うだけでそれができるということです。
「トスを少し左に上げて、打点を少し落として」とか「ボールの左下を捕らえて、プロネーションを効かせて」などといった技術的なディテールを意識しなくても打てるということです。
「あそこにこんなボールを打とう」と思うだけで打てるショットは自動化段階にあります。
「こうやって打とう」という「How」を考えないと上手く打てないということは、まだ連合段階にあるということです。
勝敗は自動化されたショットの質で決まる
試合経験を十分に積んでいる選手にとっては当たり前の話ですが、試合では自動化段階にあるショットしか使い物になりません。
もちろん相手のレベルにもよりますが、連合段階のショットはどんなにうまくいっても3割はミスします。試合は、そのミスであっという間に負けます。
勝敗は、自動化されたショットの質で決まると言えます。
例えば、次にあげるふたりの選手がシングルスで対戦した場合、勝つのは後者です。
選手1:サーブ(全球種)、リターン、フォアストローク(全球種)、バックストローク(全球種)、アプローチ、ボレー、スマッシュ、すべてのショットを打てるが、連合段階にある
選手2:サーブ(フラットのみ)、リターン、フォアストローク(スピンのみ)、バックストローク(スライスのみ)しか打てないが、それらはすべて自動化段階にある
こう考えると、どのショットを優先的に自動化させるべきなのかも自ずと見えてきます。
シングルスであれば、アプローチやボレー、スマッシュをいっさい練習せずに、とことんサーブとリターンとストロークを打ち込むというのが勝利に一番近い取り組みとなります。
要は、使う頻度の多いショットを自動化することが第一優先と言うことです。
自動化できるようになるまでには長い期間が必要です。ひとつのショットを自動化するまでには50時間以上は打ち込む必要があるでしょう。さらにその後、試合で難なく使いこなせるようになってはじめて自動化が完了します。
優先度の高いものを理解し、それに集中して時間を使った方が勝利への最短距離を走ることができます。
自動化段階に突入するのは試合中
「試合は自動化できてないと勝てない」という話をすると「試合は、練習で自動化できるようになってから出るもの」と考える人がいます。
それは間違っています。
その理由は、前述しているように、選手にとっての自動化は、試合できていることを確認できてはじめて完成と言えるからです。
練習で自動化できていたとしても、試合特有の緊張感の中で同じように自動化できるとは限りません。
特に大学のリーグのような団体戦の場合はなおさらです。リーグの試合本番は、想像を絶するプレッシャーを感じることになります。それこそ、手も足も震えます。
それに近い状況でも自動化できることを確認する必要があります。場慣れなしに自動化はできません。
是非、みなさんも、試合をたくさんこなしながら、自動化できているショットの質を上げ、その次に種類を増やすことを考えてみてください。
もちろん相手のレベルによりますが、あなたが次の試合に勝つために必要なショットは、そんなに多くないかもしれません。
それではまた、きっとどこかで。