元某大学テニス部コーチブログ

学生テニスプレーヤーへ

試合の基本だからできて当たり前。それが自動化。ゾーンはその先にある。

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このブログでもたびたび書いているプレーの自動化ですが、私はこれを理解し、追求することが試合で勝てるようになるための近道であり、入り口だと考えています。

 

あくまでも入り口で、これができて初めてスタートラインに立つわけですが、これができるかできないかで大きく結果は変わります。

 

入り口で必須課題なのに理解するのも実践するのも少し難しい。それがプレーの自動化の厄介なところです。

 

そのため、選手たちにはこれについてより正確に理解してもらいたいため、今回もこれについて書きます。

 

不明点があればTwitterで気軽にご連絡ください。

 

なぜ自動化をこれほどまでに主張するかというと、この重要性を理解し実践すれば、試合中のミスを激減させることができるからです。

 

逆にいうと、これを理解できないと試合中のミスを大幅に減らすことはできません。

 

また、自動化を理解し、それを追求する過程は、メンタル面にもよい影響を与えます。勝つために必要なメンタルも育つため一石二鳥なのです。

 

順を追って説明します。

 

「プレーの自動化」と聞いてイメージしていることは人によってどうしても微妙に異なるものです。

 

実際、私の中でも試合に不可欠な自動化のイメージが少し変化してきているのも事実です。

 

そのイメージを明文化し、選手に共有し、理解してもらうことで、選手のパフォーマンスと勝率を大きく上げることがこの記事の目的です。

 

改めて、自動化とは?

 

もともと「自動化」という言葉はリハビリなどを専門とする理学療法士の間で研究されている「運動学習」という考え方に出てくるものです。

 

例えばこちらの論文では、以下のように説明されています。

 

運動学習とは、巧みな課題遂行の能力を比較的永続する変化に導くような実践あるいは経験に関係する一連の過程である。この過程は、認知段階、連合段階、自動化段階に分けられる。認知段階では、何を行うかを理解し、言語的に戦略を考える。 連合段階では、どのように行うか、様々な戦略が試され 試行錯誤する。自動化段階では、手続きは自動化され、 注意は減少し言語は不要になる。ただし、各学習段階は、連続的に向上するため明確な境界はない。

 

わかりやすくいうと、運動学習における自動化とは、カラダの「動かし方」を考えなくてもある動作を成功させられる段階です。

 

テニスに例えるなら、技術的なことをいろいろ考えなくてもフォアハンドストロークを打ちたいところに打てるということです。

 

「考えずに打つ」ということだけでなく「成功させられる」というのがポイントです。いろいろ考えなくても打てて、そのボールがコートに入るということです。

 

相当に態勢が崩されていない限り返せないことがない状態が自動化です。アンフォースドエラーがほとんど出ない状態ともいえます。

 

これが試合に必要なプレーの自動化です。

 

こう書くと「プロでもないのにそんなの無理」と考えてしまう人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。

 

試合に出るような週末プレーヤーなら皆できます。

 

現に、学生時代に選手経験の少ない、市民大会に楽しみながら出ている、それでも勝つことに真剣な、50歳前後のおじさんでもできているのを確認しています。

 

自動化にも3つのレベルがあると考えると取り組みやすい

 

さて、前述のように説明すると「技術的なことを考えながら打つのは自動化ではない」という解釈になります。

 

しかし、テニスの場合、そう考えない方が実践しやすいと考えています。

 

もちろん、人が歩くときに「右足を出して、次は左足をこう出して」と意識しないで歩けるように、フォアハンドストロークを打てるようになるのが理想です。

 

しかし、テニスの試合で求められる技術は、歩くよりも何倍も難しい技術です。また、相手が変われば飛んでくるボールも変わります。相手が緩急をつければタイミングやリズムを変える必要があります。完全無意識の自動化は簡単ではありません。

 

ではどういうことなのか説明します。

 

テニスの試合における自動化段階は、さらに次の3つのレベルに分けて考えると取り組みやすくなります。

 

レベル1:半自動化状態

1つまたは2つ程度の技術的ポイントを強く意識することで、相手のボールスピードがつくりだすラリーのテンポに自分の動作と打点のタイミングを合わせることができ、それを継続できる。

 

レベル2:自動化状態

相手からポイントを取るためにやるべきことを感じとりながら、技術的なポイントを考えずに、相手のボールスピードがつくりだすラリーのテンポに自分の動作と打点のタイミングを合わせることができ、それを継続できる。

 

レベル3:ゾーン状態

すべて思い通りにでき、難なくポイントを取ることができる。

 

この3つです。

 

レベル2と3は、完全無意識の自動化といえます。しかし、いきなりそこには辿り着けません。

 

たとえプロでも、多くの選手が試合直前の相手とのアップで、半自動化のステップを踏んでいます。

 

大学のリーグ選手にも、試合直前のアップで半自動化し、試合本番の1ポイント目から自動化を実践している選手は多く存在します。

 

具体的には、スポーツ推薦などを採用している大学が含まれる3部リーグまでの大学のレギュラー選手は皆このレベルといってもいいでしょう。

 

4部以下の大学の選手でも上位番手の選手はこのレベルです。下位番手の選手でも、はじめの4ゲームで自動化状態に到達することができるイメージでしょう。

 

リーグ選手が目指さないといけないのは、試合のできるだけ早いタイミングでレベル2の自動化状態に到達することです。

 

ちなみに、レベル3のゾーン状態は、相手との微妙なパワーバランスや、高度な精神状態など、さまざまな条件が揃わないと到達できないため、こうすれば到達できるという方法が存在しません。

 

自動化状態を追求し続けた結果、自然発生するものと考えることをおすすめします。

 

たとえ、ゾーン状態に入れなくても、自動化状態でプレーの精度、ショットの精度を可能な限り高められれば、それに準ずるパフォーマンスを発揮できます。

 

また、それを目指す方が現実的です。

 

ちなみに、ゾーン状態を経験したことのある選手は、その状態が途切れると途端に集中できなくなり、パフォーマンスがガタ落ちしたという経験をしたこともあると思います。

 

これは、自動化状態を理解できておらず、その状態に移行するまでの方法を具体化できていないためです。

 

それほど、自動化する方法には価値があります。ゾーンとは異なり自動化には明確な手段を確立できます。自動化を理解し、実践できれば、ゾーンに入った時もその状態を長く継続できる可能性が高まります。

 

半自動化状態のつくり方

 

さて、自動化に話を戻します。

 

試合中に自動化状態に到達できない人がはじめに目指さないといけないのがレベル1の半自動化です。

 

半自動化をコンスタントに実現できれば自ずと自動化できるようになっていきます。つまり、自動化するまでの方法は、半自動化するまでの方法と同じです。

 

では、どうすればいいか。私が指導している内容を簡単に紹介します。

 

目指すは前述した「相手のボールスピードがつくりだすラリーのテンポに自分の動作と打点のタイミングを合わせることができ、それを継続できる」ことです。

 

もう少しわかりやすくいうと、相手の打点と自分の打点がおりなすリズムと、スプリットステップとスイングという2つの動作のリズムをピッタリ合わせるということです。

 

そして、それを実現するためにできなくてはいけないことが、次の6点です。

 

  1. 身体を十分ほぐしておく
  2. 自分のミスや相手のスーパープレー、自分がリードしているか否かなどの結果に意識を奪われない
  3. スプリットステップと直後のラケットセットをひとつの動作にする
  4. 打点に素早く正しく移動する
  5. 余裕をもって自分の打点でボールを捕らえる

 

試合中、自動化するために、これらのことだけを考えられるようになると驚くほど安定した精神状態をつくりだすことができることに気づけます。

 

自動化を追求すると、勝つために不可欠な強いメンタルも同時に手に入れることができます。

 

そして、徐々にそれが半自動化されつつある(=打点のタイミングが合いつつある)ことを感じとれたらほぼ完了といえます。

 

さて、半自動化段階は「1つか2つの技術的なポイントを考え」ながら実現することと前述しました。

 

そうです、ここで紹介した5つを実現させるために、自分が強く意識すべきポイントを2つまでに絞る必要があります。3つ以上になるとプレーのスピードに思考が追いつかなくなるためです。

 

つまり、5つの内、4つはそれほど考えなくても体現できるレベルに仕上げられている必要があります。

 

厳密には、ショットにつき最大2つです。サーブで1つ、ストロークで2つ、ボレーで1つといったイメージです。少なければ少ないほどいいです。

 

以下は、実際に私がプレーする際に意識することです。テニスノートにもこれだけが書いてあります。

 

  • サーブは、打点を高くしすぎない。
  • ストロークは、スプリットステップラケットセットまでを早く。
  • ボレーは、スプリットステップ時にラケットをカラダから離す。
  • 共通事項として、カラダの可動域を広くし、力に頼らず打点の質に頼る。

 

私の場合、これらを強く意識すると前述の5つを体現しやすくなり、半自動化段階に到達できます。

 

ちなみに、そこに到達したころには最後の「力に頼らず打点の質に頼る」というポイントだけが残ります。試合中、ポイント間に「力じゃない。打点の質だ」と繰り返し唱え、余計なことを考えないように全神経をその実行に集中しています。

 

これが私が自分のために確立した半自動化する方法です。

 

この、意識するべき技術的なポイントは個々人でまったく異なります。絞り込む方法については今回は割愛しますが、自分のパフォーマンスがもっとも上がるポイントを研究し、数点に絞り込む作業は上達するための必須事項です。

 

「これを意識すれば打点の質が格段に上がる!」というポイントを発見しては、日々テニスノートで整理しておきましょう。

 

最後に、完全無意識でプレーする自動化段階にはまだ到達できない選手の場合、半自動化段階に到達した後も、戦術などを考えるのではなく、1セット以上の間、技術的ポイントに意識を集中し続けた方がメンタルも安定し、パフォーマンスも最大化できます。

 

戦術は、意識せずに、ひらめき、直感に任せることをおすすめします。

 

是非、自動化する方法を明らかにし、普段のラリー練習や試合の時に、自動化を目指してください!

 

それではまた、きっとどこかで。