就活と部活を当たり前のように両立できる環境の作り方。
以前の記事「庭球部のリーグ目標は「昇格」以外ない。部員はそれを望み、何より自分のためにやり切れ。」の冒頭でも書きましたが、大学庭球部は10月に新しい代にバトンが渡されます。
団体戦であるリーグを戦うチームが新しい世代に受け継がれます。
節目のイベントとして幹部交替式といったものを設けている部もあるでしょう。
そして、新幹部はまた気持ちを新たにし、高いモチベーションを持って「昇格」を、1部の場合は「優勝」を目標に掲げ、それを達成するために何をどうしていくか、何を変えるか、さまざまな観点で考え決めていきます。
それが大学庭球部の新たな一年のはじまりです。
最下部(男子は7部、女子は5部)の大学には、もしかしたら昇格を本気で目指せていない庭球部も存在するかもしれません。しかし、そういった大学の方が少ないでしょう。
個人戦の大会もありますが、個人戦よりもリーグを重視している大学の方が多いのが現実です。
リーグ本番で最高のパフォーマンスを発揮するためのステップとして個人戦に取り組む選手は少なくありません。
もちろん、個人戦もリーグも、両方本気で取り組んでいる選手、取り組める大学は存在します。ただし、リーグを犠牲にしてまで個人戦に取り組める大学は稀かもしれません。
部員たちはみなそれを理解し、新たな気持ちで、目標を達成するために新しい一年に臨みます。
同時に、3年生はもう一年続投するか、就職活動などを理由に引退するかを決断します。
記事のタイトルにある通り、私はチームのためにも、自分のためにも、続けた方がいいと考えています。
その理由には、チーム視点のものと選手視点のものがあります。
まずはチーム視点のものから説明します。
すべての部員には共通する使命がある
この先を読み進める前に意識を合わせておきたいことがあります。それは、冒頭にも書いた通り、チームのゴールは昇格であり、すべての部員がそれに対して本気になっている世界が大学の庭球部であるということです。
つまり、部員の使命は、自分たちの大学が昇格し続けることに、大学生活を通して尽力することです。
関東学生テニス協会の規約で定められている、一選手のリーグ出場可能回数は4年制の大学で4回、医学部は6年制のため6回、短大は2年制のため2回です。
やれる限りのとを尽くす。
つまり、部員はこの出場可能回数分、最大限、リーグ目標を達成するために尽力してはじめて、部のために使命を果たせたと言えるのです。
これが、3年生がもう一年続けた方がいい、チーム視点の理由のひとつです。
ちなみに、この「コミットする」という経験は、社会人になってからも選手自身を何度も救ってくれる力となります。
部の実力を一晩で一変させる「ヒト」という要素
チーム視点の理由がもうひとつあります。
チームを強くすることを考える際、重要な要素に以下の3つがあります。幹部は、この3つを充実させることを考えていかなくてはいけません。
- ヒト
- モノ
- カネ
大学で経営学などを学んでいる学生ならすぐに理解できると思います。これは営利事業を行う組織が充実させなくてはいけない3つの要素としてよく知られています。
これを大学の庭球部でも同じことがいえます。この3つを充実させるということを庭球部の言葉に置き換えると以下となります。
- ヒト=選手層を厚くする
- モノ=選手個々人の技術力を高める
- カネ=部を運営するための資産を増やす(お金やコートなどの環境)
大学庭球部の場合、この3つはこの順に変動しやすく、チーム力に影響しやすい要素と言えます。
チームの勝利にもっとも貢献した3年生のエースが4年になっても現役を続けた場合と、引退した場合とでは、翌年のチーム力に大きな差が生まれるのはいうまでもありません。
そういった意味で、選手層の厚さは最も重要な要素です。特に規模の小さい大学の庭球部は部の存続が危ぶまれることさえあるためなおさらです。
これが2つめの理由です。
ちなみに、同様の理由で新人歓迎も非常に重要なイベントといえます。
いや「就活」は最優先事項
ここまで書いてきたことは、チーム視点の話です。ここからは個人、選手視点の話をします。
当然、3年生には3年生特有の事情があります。もっとも決断に影響することが「就職活動」であることはいうまでもありません。
テニスは好きだし、やりたいけど、自分の将来のために就活も成功させなくてはいけない。リーグのためにテニスを本気でやりながら、就活を成功させることができるか不安。
わかります。
大切と考えている就活を犠牲にしてまでテニスをするべきではありません。
ただし、「本当に犠牲になってしまうのか?」といことはしっかり考えなくてはいけません。
本当にテニスが好きでやりたいならしっかり考えるべきです。
まず、多くの先人達が部活と就活を両立できているという事実があります。
もちろんそれは、楽なことではありません。
それでも、大学庭球部で本気で活動してきた学生が持つエネルギーと能力なら両方をやり切ることは可能です。
幹部という大変な役割と合わせて選手として活動してきた3年生ならなおさらです。
また、テニスで勝てる選手になるというゴールから逆算して活動する部活で実践してきたことを応用すれば、数打てば当たるといった発想の疲弊する下手な就活を避けることもできます。
部活でやってきたように、自己分析し、自分の強み弱みを理解し、相手(企業)を理解するためにさまざまな業界で働くOB/OGの先輩方、身近な大人たちから多くの情報を仕入れ、自分に合っている企業を探し、計画的に、効率的に就活を実践できます。
例えば「選択と集中」という考え方は就活でも使えます。よくわからないから「手当たり次第」となるのではなく、前述のように特に先人から、たくさんの情報を仕入れ、「これだ!」という数社に企業を絞って熱い気持ちで挑むことが重要です。
現にこのように、部活と就活、両方を取りにいき、テニスもやり切った上で、希望の企業の内定を取っている学生は何人もいます。
彼らは皆、テニスで良い気分転換さえできています。
社会人になったら驚くほどテニスは出来なくなる
後悔しないように、やりたいことをやれるのは学生時代の特権です。社会人になったら、驚くほどテニスはできなくなります。理由は、コートと仲間が簡単には手に入らないからです。
「テニスをするのにこんなに手間もお金もかかるのか」と驚きます。
さらに、家庭を持てば学生時代のような自由は完全になくなります(他の楽しみはありますが)。
だから、今はやりたいことをやるべきなのです。それが、人として自分を成長させるテニスなのであればなおさらです。
就活生特別ルールを導入する
とはいっても、部活と就活の両立は楽ではないのは確かです。
そこで、選手層に悩む部の幹部であればそこに配慮するということは考えるべきです。
私が導入すべきと考えているルールは以下です。
「就活生に限り、就活が理由であれば部活を制限なく休めることとする。また、ある就活生がどれだけ休んでも、それ以外の部員は一切不信に思ってはいけないこととする。当然、不満も一切口にしてはいけないこととする」
理由は、大学庭球部に所属する大学生、個人にとって大切なことは次の2つだからです。
- 部活における目標である昇格の達成
- 就活における内定の獲得
これら両方を達成しやすくするルールを新設し、合わせて文化も変えていくべきです。いつまでも昭和の根性論文化を残しておいてもメリットはありません。
安心してください。もしかしたら常識破りとも思われるこのルールを設けても、昇格を本気で目指す庭球部なら、何かを成し遂げるために必要な根性は1〜3年生の間に十分に育ちます。
もちろん、このルールのためにチーム力が低下していくこともありません。
やる奴はやります。
説明責任を果たし、チームをどんどん正しい方向に変えて行け
以前の記事「 練習中の「声出し」は本当に必要か?部の常識を疑え」にも書きましたが、いつも新しいルールを導入するとき、変化を作るときは、それに拒絶反応を示すメンバーやOB/OGは必ず出てきます。
この場合、「就活を優先するような気持ちの中途半端な人間にリーグで戦う権利を与えていいのか?」という声は必ずあがります。
しかし、そこは幹部が説明責任を果たすべきです。
「個々人にとって就職活動はリーグ同等に重要なことであると考えています。そのため、最終学年時は、就活も部活もどちらも取りに行ける環境を作ることに決めました。
リーグは実力社会です。最後は実力で決めるべきです。だから、本当にやる気のある部員はこのルールがあってもやり切ります。
これが目標であるリーグ昇格を達成するためのもっとも適した選択です。
もちろん、これは実力のある3年生にもう一年いてもらいやすくすることも目的のひとつです。
それでも、それ以外の全部員がレギュラーを目指し最善を尽くすことは大前提です。
我々は自分たちの力でチームの力を最大化します。
どうかご理解ください」
選手層に悩む大学庭球部は、是非この機会に、新しいルールの導入を検討してみてください。